新型コロナウイルス(COVID-19)についての研究が進められていくにつれて、当初から懸念されていたことをが徐々に明らかになってきました。
無症状の感染者が感染源となっているだけでなく、知らずしらずのうちに世界規模のパンデミックに油を注いでいるかもしれないというのです。
3月19日時点でアメリカ疾病予防管理センター(CDC)のページでは、無症候性感染が「主な感染方法ではないと考えられる」との記載はありますが、 アメリカでは以下のような情報が出てきていると米Gizmodoが伝えています。。
無症候性感染の真偽
公衆衛生専門家の間では、新型コロナウイルスの感染リスクがもっとも高いのは症状を伴った患者との接触という見解で一致していたものの、潜伏期間中にも感染リスクがあるかどうかは不明でした。ちなみに、新型コロナウイルスに感染してから初発症状が発現するまでの「潜伏期間」は5日から2週間と言われています。
新型コロナウイルスが流行り始めた初期の混乱の最中には、中国で無症候性感染が確認されたという報告があったり、ドイツ内でも無症候性感染が広まったとするレポートが発表されましたが、いずれも後から事実関係がくつがえされ、感染源となった患者にはすでに症状があったと訂正されていました。
積み重なるエビデンス
ところが最近になって無症状、もしくは軽い症状のみのウイルス保有者、あるいは潜伏期間中でまだ初期症状が発現していない人からもCOVID-19が感染しているというエビデンスが蓄積されつつあるようなのです。
ある研究によれば、新型コロナウイルスの感染力が一番高まるのは症状が出る前と症状が出てからの1週間という説も。潜伏期間中、感染している人の体内ではウイルスが培養され続けていて、鼻と口から感染源のウイルスがばらまかれていることを示唆しています。
実際アメリカ・マサチューセッツ州にあるバイオジェン本社でクラスターが発生し82名が集団感染した事例では、感染源となった3名の社員にはいずれも症状がなかったことをCNNが報道しています。その他、各国で感染ルートをたどっている研究者たちからも、次々と無症候性感染を裏付ける報告が寄せられています。
医学分野のプレプリントサイト「MedRxiv」に掲載されたある予備研究では、シンガポールでの感染例のおよそ48%、そして中国・天津市での感染例の62%がいずれも発症前の人から感染したと発表されていました。この研究はまだ査読されていないので鵜呑みにしてはいけないのですが、もうひとつ、学術誌『Science』に発表されたもっと新しい研究も、1月23日以前に中国で起こった感染例の86%は医療機関などで認知されていなかった…、すなわち感染者本人の自覚症状がないままウイルスを広めてしまったと報告しているのです。
研究者によれば、「これらの認知されていなかった感染例は非常に軽度だったか、あるいはまったく症状がなかったために見過ごされてしまい、感染力や感染数によっては人口の大部分が感染にさらされるリスクが高まった」とのこと。間違いなく懸念すべき研究結果と言えるでしょう。
潜在的リスク
新型コロナウイルスの症状が軽かったり、症状がまったくない人は、症状が顕著に出ている人よりも感染力が弱いとはいえ、感染者という自覚がないまま社会に出て感染を広げてしまっている可能性を否定できません。『Science』の研究者が見積もったかぎりでは、感染力そのものは弱く、新型コロナウイルスの症状が出ている人と比べるとおよそ半分だったにも関わらず、中国の確認された感染例のうちの79%は無症状・軽症状だった人が感染源だったとか。
もしこの概算が中国以外の国にも当てはめられるとしたら、記事執筆時の3月16日現在で世界的に確認されている新型コロナウイルスの発症例が18万件だとすると、すでに100万人の隠れ感染者が存在していることになります。
隠れ感染者のほとんどはおそらくすでに回復しており、中国や韓国では新たな感染者数が減少傾向にあるようです。しかし世界的に見ると、このパンデミックが今後さらに悪化していくことは避けられないでしょう。
感染が広がっている各国では、新たな感染に歯止めをかけられるような大規模で大胆な手段をやっと導入しはじめたばかりで、依然として大人数が集結するようなイベントが各地で開かれています。
社会的距離の確保
新型コロナウイルスの潜在的リスクを考えると、あらためて「social distance(社会的距離)」の重要さを感じずにはいられません。CDCは50人以上が集まる場所には今後最低でも8週間は自粛するよう呼びかけていますし、ホワイトハウスからは10人以上の集会を避けるべきとの見解が発表されています。ただし、CDCのホームページには無症候性感染が「主な感染方法ではないと考えられる」と書いてあるので、今後見直していく必要があると思われます。
このような対策は、多くの人にとって経済的な痛みを伴う手段であることは間違いありません。しかし、今こそ社会的距離を確保しておかないと、事態の収束が長引いてしまう可能性もあります。なんとかこの危機を一日でも早く乗り切りたいものです。