●PCMark / CineBench
○Core-X(Cascade Lake-X)と第3世代Ryzen TPの決着をつける
「【暫定レビュー】」と銘打った評価記事をリリースしてから1カ月以上経過してしまったが、完成版をお届けしたいと思う。ちなみに前回の最後で「『可能なら』Core-Xの下位モデルも追加したいと考えている。乞うご期待。」と書かせていただいたが、残念ながら叶わなかった。というわけで、IntelのCore-Xに関してはCore i9-10980XEのみである。その代わり...にもならないのだが、評価対象としてThreadripper 2990WXも追加させていただいた。
○◆評価機材とテスト環境
基本的には今回のテストは前回の環境にRyzen Threadripper 3960X(Photo01~04)とRyzen Threadripper 2990WXを追加しただけである。ただ前回は紹介しなかったテストをいくつか追加している。
テスト環境は表1の通りである。OSはまだWindows 10 Version 1903のままとなっている。ちなみに以下のグラフにおける表記は
Ryzen 9 3900X:R9 3900X
Ryzen 9 3950X:R9 3950X
Ryzen Threadripper 2990WX:TR 2990WX
Ryzen Threadripper 3960X:TR 3960X
Ryzen Threadripper 3970X:TR 3970X
Core i9-10980XE:i9-10980XE
とした。解像度の表記やテスト手順などは前回と一緒なので今回は割愛する(今回追加したテストを除く)。
○◆PCMark 10 v2.0.2144(グラフ1~6)
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/pcmark10
ではまずPCMark 10から。Ryzen Threadripper 2990WXが入ったおかげで、相対的にCore i9-10980XEがあまり遅くない様に見えるマジックが発生しているが、まぁそれはそれとして。とりあえず以前も書いたが、普通の処理にはRyzen Threadripper 2990WXはまるで向いておらず、実際今回もEssentialsのスコアが5000を切っている(PCMark 10はReference構成のスコアで5000となる様に係数を調整されている)あたり、要するにこのReference構成にも劣る程度の性能しか出ないということになる。これがRyzen Threadripper 3900シリーズでは極めて高い(Ryzen 9 3900シリーズと同等の)性能、というあたりはやはり元々のRyzen Threadripper 2900シリーズの構成に無理があったというべきか。
個々のテスト結果(グラフ2~6)も前回からあまり評価は変わらない。ほぼすべての項目でRyzen Threadripper 2990WXが一番スコアが低く、一方Ryzen Threadripper 3960XはRyzen Threadripper 3970Xに少し劣るといった程度のスコアにとどまっており、概ね前回と同等という感じだ。
それはいいのだが、たとえばグラフ5のPhoto Editingとかグラフ6のExcelで、Core i9-10980XEのスコアがRyzen Threadripper 2990WXと同等というのは、勿論価格を考えればCore i9-10980XEの方がコストパフォーマンスは良いという議論はあるにしても、ちょっとこうしたテストでCore i9-10980XEの成績が振るわない理由をもう少し検討する必要がありそうだ。
○◆CineBench R20(グラフ7)
Maxon
https://www.maxon.net/
Single CPUはまぁ動作周波数なり、というところ。一方Multi CPUでは、さすがにコアの数が多い分Ryzen Threadripper 2990WXがかなり健闘している。ただ全コアフル稼働だから、動作周波数は最終的に限りなくBase Clockの比になる訳で、Base 3GHzのRyzen Threadripper 2990WXは、Base 3.7GHzのRyzen Threadripper 3970Xに比べると分が悪いのは致し方ないところ。実際Base Clockの比(23%)とスコアの比(25%)が大体同じ程度、というあたりもこれを裏付けていると思う。
それにしても、18コアのCore i9-10980XEが16コアのRyzen 9 3950Xにやや見劣りするのは解せないところではある。
●TMPGEnc / DxO PhotoLab / 3DMark
○◆TMPGEnc Video Mastering Works 7 V7.0.12.14(グラフ8)
ペガシス
http://tmpgenc.pegasys-inc.com/ja/product/tvmw7.html
さて、異様にRyzen Threadripper 2990WXの性能がやけに悪いが、以前テストを行った時の性能と比較すると(厳密に言えばTMPGEncのバージョンが違うが)やっぱり同じ程度だったことを考えると、どうもこういうもののようだ。前回はRyzen 7 2700Xとかとの比較だったからそれでも優位性が保たれたが、今回は競合が悪すぎたということか。一方Ryzen Threadripper 3960Xの性能はまぁ妥当なところだと思う。
○◆DxO PhotoLab 2 V2.3.2.265(グラフ9・10)
DxO Labs
https://www.dxo.com/ja/dxo-photolab/
テスト対象が増えてちょっとグラフがデカくなりすぎたので、α7 IIとE-M5でグラフを分けた。さて、α7 II(グラフ9)の方は先のグラフ8に傾向が近いが、Ryzen Threadripper 2990WXの性能がそこまで悪くないのは、Thread間の同期の頻度が少ないためではないかという気がする。もっとも、絶対性能で言えば16コアのRyzen 9 3950Xに及ばない程度(これはグラフ9も同じ)というあたり、32コアの意味が現在では非常に薄くなってしまっている気もする。Ryzen Threadripper 3960Xについては、構成を考えると妥当な性能だと思う。
○◆3DMark v2.10.6799(グラフ11~16)
UL Benchmarks
https://benchmarks.ul.com/3dmark
次いで3D系を。まずグラフ11・12がOverallで、ここでもRyzen Threadripper 2990WXのスコアが飛び抜けて悪いが、こちらも描画負荷が上がると性能差がなくなるあたりは判りやすい。一方Ryzen Threadripper 3600Xは概ねRyzen Threadripper 3700Xに同じで、どうかするとやや上回っている事があるのは、Base Clockが3.8GHzとちょっとだけ高い事に起因するのではないかと思う。
Graphics Test Detail(グラフ13・14)でもやはりRyzen Threadripper 2990WXの性能が低い(特に負荷の低いIceStormなどで顕著)というのは、要するに描画コマンドの発行が間に合ってないためと思われる。逆にRyzen Threadripper 3600Xは優秀な成績で、ほぼRyzen Threadripper 3700Xに並んでいる。まぁTimeSpyを除くと原則DirectX 11ベースだから、当然Multi-Thread性能は無関係になるわけで当然ではあるのだが。ただ、ではMulti-Thread性能が効きそうなCPU/Physics Test Detail(グラフ15)は? というと、ここでも芳しくない。当然Combined Testでも、(GPU負荷が重すぎてCPU性能が殆ど関係ないFireStrike Ultraはともかく)やっぱり低めに推移している感じだ。
逆にRyzen Threadripper 3960Xは妥当な結果だとは思うが、Combined TestでSkyDiverはRyzen Threadripper 3960X有利、FireStrikeはRyzen Threadripper 3970Xが有利、という結果もちょっとよくわからない。更に言えば、SkyDiverのみ、妙にCore i9-10980XEが突出しているのもいまいち理解に苦しむところである。
●ゲーム: Borderlands 3 / F1 2019 / Far Cry New Dawn
○◆Borderlands 3(グラフ17~23)
2K Games
https://borderlands.com/ja-JP/
Borderland 3は平均フレームレート(グラフ17)を見る限り大きな差はみられない。最大(グラフ18)/最小(グラフ19)フレームレートはそれなりにバラけるが、最小フレームレートでちょっとRyzen Threadripper 2990WXが低めという程度である。
実際にフレームレート変動を見てみると、2K(グラフ20)だと前半は意外にもRyzen 9 3900Xが低め、広範はRyzen Threadripper 2990WXが低めと面白い傾向で、これが2.5K(グラフ21)だと差がなくなる。3K(グラフ22)だと前半Core i9-10980XE有利に見えるが、実は性能差はそれほど大きくない。4K(グラフ23)はグラフ21をちょっとだけバラけさせた、という程度。Ryzen Threadripper 2990WXであっても、Borderland 3の利用には支障はないというのは面白い結果である。勿論Ryzen Threadripper 3960Xであっても問題はないが。
○◆F1 2019(グラフ24~30)
Codemasters
http://www.codemasters.com/game/f1-2019/
逆にきっちりRyzen Threadripper 2990WXが他と分離しているのがこちら。最大フレームレート(グラフ25)のみ、それほど分離している感じにはならないが、平均(グラフ24)・最小(グラフ26)に加え、フレームレート変動(グラフ27~30)も綺麗に他と分離している。逆に言えば残り5製品の間に大きな違いはない、という言い方も出来る。強いていうのであれば、Ryzen Threadripper 3960Xがあまり振るわないというか、Ryzen 9 3900X並の成績に落ち込んでいるのがちょっと気になるところではある。ただそれも強いて言えば、という程度でしかない。Core i9-10980XEは? というと、2K(グラフ27)ではちょっと高めだが、その後は中団に飲み込まれているという感じだ。
○◆Far Cry New Dawn(グラフ31~33)
UbiSoft
https://ubisoft.co.jp/fcnd/
Threadripper系列が概して振るわないのがこちら。元々Previewの時にその傾向はあったが、どうもThreadripperのアーキテクチャと相性が宜しくないらしい。平均フレームレート(グラフ31)を見ると、Ryzen Threadripper 3970Xも酷いが、それに輪を掛けて酷いのがRyzen Threadripper 2990WXである。この傾向は最大(グラフ32)・最小(グラフ33)ともに変わらない。
Photo05~Photo10が、2Kにおけるそれぞれのフレームレート変動のキャプチャであるが、とにかくRyzen Threadripper 2990WXと3970Xは細かなフレームレートの振動が発生しており、これが平均フレームレートを下げている要因の一つとも思える(Ryzen Threadripper 2990WXはそもそも絶対的なフレームレートそのものが低い)。Ryzen Threadripper 3960Xは、3970Xに比べれば多少マシではあるが、それでも細かい振動が発生している事に変わりはない。なぜ、という問いの答えは持ち合わせていない(それこそTerry Makedonにでも解析を依頼したいところだが、GeForce RTX 2080 Superを使っているとそれも難しい)が、Ryzen Threadripper 2990WXから3960X/3970Xになってチップ間接続の方法が完全に変わったにも関わらず、こうした問題が出るアプリケーションは存在する事は留意しておく必要がある。
●ゲーム: FF XV / For Honor / Metro Exodus
○◆FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION ベンチマーク Version 1.2(グラフ34)
SQUARE ENIX
http://benchmark.finalfantasyxv.com/jp/
PreviewでもCore i9-10980XEが他を圧倒している結果ではあったが、今回はそれを再確認した形になる。加えて言えば、Ryzen Threadripper 2990WXは10000そこそこで頭打ちになるあたりは、こうしたコンシューマ向けアプリケーションとの相性がとことん悪いということになる。まぁこれはDynamic Localモードの適用とか、Ryzen MasterでGame Modeに設定してしまうなどの回避策はあるが、本末転倒な気はしなくもない。逆に言えば、この2製品以外に関して言えばほぼ同じというか、目立ったスコアの差はみられない事も確認できた形だ。
○◆For Honor(グラフ35~37)
UbiSoft
https://forhonor.ubisoft.com/
他に比べると差が目立たないのがこちら。Ryzen Threadripper 2990WXでさえ、2Kで平均フレームレート(グラフ35)若干(5fps程度)下がる程度で、それも170fps前後における5fpsだから、実際問題としては殆ど差が無いとして良いと思う。同様に最小フレームレート(グラフ37)もやや低いが、こちらも5~6fpsのオーダーで、少なくともプレイに支障がでるようなものでもない。概ね同等、として良いかと思う。
○◆Metro Exodus(グラフ38~44)
4A Games
https://www.metrothegame.com/
最初、平均/最大/最小(グラフ38~40)を作成した時に、てっきりRyzen Threadripper 2990WXだけ測定をミスした(VsyncをOnにした)かと思った。実際このグラフを見ると、そんな感じにすら見える。その他のCPUは、最大フレームレート(グラフ39)こそ多少バラつくものの、あまり大きな差がないからだ。ただMetro Exodusでのベンチマークはこちらにもある様に、パラメータファイルを利用しての自動ベンチマークであり、そして同一のパラメータファイルを使いまわしているので、基本設定をミスするのは難しい。
であるが、フレームレート変動(グラフ41~44)を見て安心したというか、設定に誤りがあった訳ではなく、殆どの時間で60fps未満の性能しか出せない、という事が再確認できた。F1 2019やFar Cry New Dawnもそうだが、やはりRyzen Threadripper 2990WXの構成は根本的にゲームには向かない、ということだろう(まぁ判っていた話ではあるが)。
●ゲーム: Middle-earth / Tomb Raider / The Division 2
○◆Middle-earth:Shadow of War(グラフ45~47)
Warner Bros
https://warnerbros.co.jp/game/shadowofwar/
相対的に言えば相変わらずRyzen Threadripper 2990WXが低い性能ではあるのだが、その差は他のゲームに比べるとずっと少ない。実際平均フレームレート(グラフ45)を見ると、2.5K以上はどれも大差ないという感じになっている。最大フレームレート(グラフ46)は、どれも200fps以上の結果になっており、現実問題としてここでの差は意味がない。最小フレームレート(グラフ47)は暴れすぎで参考にならないという、これまでと同じ結果である。
○◆Shadow of the Tomb Raider(グラフ48~54)
SQUARE ENIX
https://tombraider.square-enix-games.com/en-us
まず平均/最大/最小フレームレート(グラフ48~50)を見ると、またしてもRyzen Threadripper 2990WXのスコアだけが突出して低い事が判る。逆に言えば、それ以外の製品に関してはほぼ同等であって、2Kでこそ多少バラつきはあるものの、その先は概ね収束しているとして良い。では、実際のフレームレート変動は? ということでまず2K(グラフ51)を見ると、Ryzen Threadripper 2990WXに関してはかなりひどい結果になっている。もっともここまで激しくフレームレートが変動するのは2Kのみで、2.5K~4Kでは時折ピークはあるものの、変動幅はずっと小さくなっているし、変動の頻度も減っている。要するに、GPUをフルに使う(=PCI Express経由でのアクセスが多くなる)と、何かしらボトルネックが露呈しやすいのかもしれない。
○◆Tom Clancy's The Division 2(グラフ55~61)
Ubisoft
https://www.ubisoft.co.jp/division2/
平均(グラフ55)/最大(グラフ56)フレームレートは意外なほどに差が無いというか、2Kを除くとほぼ同等といったあたりに落ち着いている。最小フレームレート(グラフ57)は流石にRyzen Threadripper 2990WXが妙に低めになっているが、その他はほぼ同等といったところ。フレームレート変動を見ると、2K(グラフ58)のみちょっとRyzen Threadripper 2990WXの変動が多く、なるほど最低フレームレートが低い訳だというのが納得できるが、2.5K(グラフ59)~4K(グラフ61)では全く差が見られない。むしろ4Kに関して言えば、Ryzen 9 3900Xとか3950Xの方が最低フレームレートが下回る、という話になっている。もっともフレームレートの絶対値で言えば、2.5KまではPlayableながら、3K(グラフ60)だとどのCPUでもちょっと厳しい感じになっており、描画品質を下げるが、GPUを更に上のグレードにするなどの工夫が必要だろう。
●IntelBurnTest / Intel MKL / MATLAB
○◆IntelBurnTest V2.54 & Intel MKL Benchmarks Suite 2019.6.004(グラフ62・63)
AgentGOD
http://www.xgamingstudio.com
Intel
https://software.intel.com/en-us/articles/intel-mkl-benchmarks-suite
さて、ここからのテストは今回追加した、ワークステーション向けのベンチマークである。こちらでは想定メモリを64GBとしているので、Ryzen 9 3900X/3950Xのスコアは無しである。
まずは算術演算性能ということでLINPACKを行おうと思ったのだが、Intel MKL(Math Kernel Library)はAMDのCPU上では動作しない。そこでちょっと悩んだのだが、今回はIntelBurnTestを利用した。
ちなみに上に示したLinkはReadmeに記載されているものだが、既にこのサイトそのものが存在しない。ただ多数のダウンロードサイトに収録されているので、"IntelBurnTest 2.54"を検索すれば入手可能である(筆者はTechPowerUpから入手した)。
IntelBurnTestのオリジナルはIntel MKL(Math Kernel Library)で提供されるLINPACKを利用しているが、なにしろバージョンが古い(ReadMeによれば2012年にリリースされている)から、最新の拡張命令はサポートされていない。実際Compatibilityを見ると、一番新しいコアでもCore i7-3610QM(IvyBridge)であり、しかももっと古いPhenom IIだのPentium IIIだのまで記載されているあたり、恐らくはSSEまでしか拡張命令をサポートしていないと思われる(というよりも、そういう古いLINPACKをベースに構築したと思われる)。
さて使い方であるが、割と単純である。立ち上げるとこんな画面(Photo11)になる。設定箇所は"Times to run"(繰り返し回数)と"Stress Level"(利用メモリ量)の2つしかない。Stress LevelはPhoto12に示すように4段階+Customがある。