環境保全への積極的な取組みで知られるアップルは、iPhoneを自動的に分解して素材を回収するロボット「Daisy」を導入しています。同社がこのDasiy技術を、他社に提供することを検討していると報じられています。Dasiyは2018年4月、アースデイを前にして公開されたもの。アップルいわく「iPhoneの中にある貴重な素材を一段と多く回収するためのもっとも革新的で効率的な方法」であり、15モデルのiPhoneに対応し(2019年4月時点)1時間に最大200台のiPhoneを部品に分解して分類する機能を備えています。
具体的な分解方法の手順は、およそ4ステップから構成されます。まずマイナス80度の冷気を吹き付けてバッテリーを凍らせて爆発を防ぐ措置を講じ、それを板状のスラブに叩きつけて落ちたバッテリーを回収。次に杵のようなもので何度も叩いて部品を留めているネジを緩め、パーツが外れると細いドリルがリアカメラやメインロジックボード、ハプティック(振動)モーターなどを外していく仕組みです。
そうして外された部品はリサイクル業者に送られ、希土類元素やタングステン、アップル製アルミ合金(細断されていないため質の劣化が防がれている)など従来の方式以上に多くの素材を、従来以上に効率的に回収できると謳われています。
なぜDasiyが分解する最初の製品としてiPhoneが選ばれたのか。アップルの環境・政策・社会イニシアティブを担当するバイスプレジデント、リサ・ジャクソン氏は、iPhoneが大衆的な人気があるからと述べています。
さらにジャクソン氏は、Daisyの技術を電気自動車メーカーを含む他の各社への供与を検討しているとも語っています。電気自動車はガソリン車以上に鉱物資源(たとえばバッテリーには希少金属のコバルトや、さほど希少ではないが金属リチウムが含まれる)が使用されており、新たな鉱物採掘を拡大する必要が指摘されているからです。
その一方でジャクソン氏は「私たちは採掘する人達と必ずしも競合しているわけではありません」「この開発で鉱山関係者が恐れることはありません」ともコメント。具体的にどのように脅威とならないかは説明されていませんが、反発を招くことを避けるための発言と思われます。
もっとも、米ロイターは国際金属・鉱業評議会(The International Council on Mining and Metals, ICMM)のTom Bulter会長の「アップルがこれを実践できるとは、羨ましい立場にありますね」「他の誰もが追随できるわけではありません」との発言も伝えています。自動分解ロボット工場の導入はiPhoneという世界的な大ヒット製品を前提としており、そのコストを誰しも背負えるわけではない(だから普及には限界があり、鉱業の脅威にはならない)と示唆していると思われます。
それに加えて、ハイテク製品の分解でおなじみの修理業者iFixitは、「すべての金属を回収できると信じるのはうぬぼれだし、不可能なことです」と指摘。リサイクルよりも修理可能な製品の開発にもっと集中して欲しいとの声の代表として紹介されています。
とはいえアップル製品は小型化薄型化のために大量の接着剤を使用しており、修理可能な設計にするとは洗練されたデザインを諦めることにも近いはず。「そちらが困難だからこそ、リサイクルを強調」という側面もあるのかもしれません。