※この記事は2019年2月15日に公開された記事の再掲載です。
Google、Amazon、Facebook、Microsoft、そしてAppleの製品・サービスをそれぞれ1週間ずつ断ってみるこの企画。第5週目はAppleですが、スマホはiPhone・パソコンはMacというAppleどっぷりのKashmir Hill記者にとってはかなりつらい1週間だったようです。
5週目:Apple
巨大テック企業を生活からひとつずつ切り離していくというこの実験を考えた時点では、私はふたつの会社を対象外にするつもりでした。ひとつはMicrosoft、ほとんど使っていないので。そしてもうひとつはApple、こちらは使いすぎているからです。
まずMacBook Airが2台、仕事用に支給されたものとプライベート用のものを使っています。それからiPhoneは私の「テック器官」と呼んでいるくらい、体の一部です。さらに夫と共有のiPad2はジムで使ったり、飛行機や長時間ドライブのときに1歳の娘を退屈させないために使っています。
Appleは私にとって、全デジタル世界への入り口です。私はどんな日でも、1日のほとんどの時間、Appleのデバイスに触っています。だからAppleを生活から取り除かれるのは、体の中でもすごく便利で不可欠な何か、たとえば指とか目をむしり取られるのと同じことを意味します。
なぜAppleを断たなきゃいけないんでしょうか? たしかに彼らはとても価値のあるパワフルな会社で、時価総額はほぼつねに世界最高、それでもだいたいはテック企業の中で正義の味方側にいると思われています。税金逃れとか外国の下請けの劣悪な労働環境とか中国でプライバシーを他の国と同レベルに維持できてない疑惑とか、iCloudのセレブ画像漏えい事件とか、最近ではFaceTimeの巨大バグ、とかとか問題はあるものの、Appleは全体的には悪評を逃れてきました。
実際、Appleはテック界のプライバシー番長みたいになっています。最近FacebookとかGoogleが研究目的と称してユーザーのデータを不正に集めてたことが発覚したとき、彼らのiOSアプリを強制ブロックしてました。この件は、その気になればユーザーのiPhoneに入っているアプリも止められるAppleの強大な力を世に見せつける結果にもなりました。
Appleの利益は、ハードウェアを売ることと、他社のアプリ販売の上前をはねることでできています。彼らのビジネスモデルは、GoogleとかFacebookみたいにユーザーのデータを売ったり広告を載せたりするのとは(少なくとも今は)まったく違います。Appleのティム・クックCEOは、人のデータを売り物にするビジネスをあちこちで批判して競合他社をこきおろし、そんな悪役たちの動きを制限するプライバシー法の必要性を呼びかけています。
このスタンスはただのイメージ戦術かもしれませんが、Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOはクック氏の攻撃に気を悪くしてるようで、経営陣にiPhoneの使用中止を求めたそうです。Facebook公式では、「世界でもっともポピュラーなOS」であるAndroidを社員に勧めただけ、ってとぼけてますが。
たしかにAndroidのユーザー数はiOSよりずっと多いんですが、私はいわゆるApple信者なんです。でも米Gizmodo編集部は私のApple依存に共感してくれなくて、この企画でApple断ちもしなきゃダメって言ってきました。
なので私は自分の体から「テック器官」を1週間切り離してみたんですが…すごく痛いです。
まず、iPhoneの代わりがない
この実験ではiOSデバイスはもちろん、ネット上でもどんな形でもAppleと接触できなくなります。エンジニアの Dhruv Mehrotraさんがこの実験用に作ってくれたVPN環境を使って、Apple配下の1677万7216個のIPアドレスと私のデバイスの間の通信を完全遮断します。当然iCloudとかあらゆるAppleアプリも使えなくなります。まあどっちにしろAppleデバイスを使わなければ、たいていのAppleアプリは使えませんが。
でもいきなり大問題になったのは、スマホをどうするかってことです。普通にAndroidスマホを使ってもいいんですが、私はApple断ちの後はさらに巨大テック全部いっぺんに断つ実験も予定していたので、そのときにも続けて使えるスマホがベストだと思いました。ただ今どきのスマホ市場はほぼAndroidとiOSの寡占状態で、それ以外のスマホを見つけるのは至難の技でした。
Windowsフォンは戦いに破れ、Firefoxフォンも安らかに眠っています。Blakberryも今やAndroid陣営です。私はサンフランシスコのダウンタウンにあるT-Mobileのお店に行って、AppleでもAndroidでもないガラケーがないか聞いてみましたが、彼らはスーパーのTargetに行ってみれば?と言うだけでした。
米Gizmodoのマネージングエディター・Andrew Coutsも、助けようとはしてくれました。彼はSailfishというヨーロッパのインディペンデントなスマホOSの会社にコンタクトしてくれたんですが、彼らがメールに返信してきたときはもう時間切れでした。もうひとつヨーロッパの/e/(旧Eelo)という、AppleもGoogleも使わない「データ奴隷制からの開放」 をミッションに2017年に立ち上げたNPOがありました。このNPOはデベロッパー的な人がDIYでスマホを作れるツールを提供しているんですが、私が普通に買えるスマホを作っているわけではありませんでした。それでもDuvalさんがEeloのプロトタイプを送ろうか?と言ってくれたんですが、こちらも時間がかかりすぎました。
なのでApple断ち開始時点の私はスマホなしの状態で、発狂しそうになっていました。
救世主となるか、Libremパソコン
でも私は、この実験の最後の2週間用で使えるパソコンは持っていました。巨大テックを忌み嫌い、自分たちは「解放運動」をしているのだという会社・PurismのLibrem 13というコンピューターです。私の仕事のほとんどはオンラインでできるので、ブラウザやブラウザベースのアプリがあればこなせます。あとはSignalというメッセージングアプリなどで電話やチャット、テキストメッセージなども可能でした。なのでパソコンさえあればなんとかやっていけるはずです…少なくとも理論上は。
Purismのコンピューターは真っ黒で、白いロゴがキーボードのひとつのキーと、本体裏側にあるだけです。MacBookみたいにマットなアルミを使っていますが、Purismを立ち上げたTodd Weaverさんに言わせれば、Appleはアルミニウム素材も独占しています(本当の独占じゃありませんが、感覚的に)。
13インチのLibrem(Libreは「自由」を意味)の価格はAppleと同等の1399ドル(約15万4000円)で、OSはGNU/Linux、プライバシーやセキュリティに関するいろんな機能が満載ですが、そのせいで手間取ることもあります。たとえばビデオチャットしようとしたときにカメラとマイクが使えなくなっててあれ?と思ったら、カメラとマイクの物理スイッチがあって、それがオフになっていました。
Purismはコンピューターハードウェアの世界では新参で、2017年に「社会的目的会社」になったところです。つまり彼らは利益の最大化だけを追及するんじゃなく、会社としてのミッションを考える、ということです。50人くらいいる社員は基本リモートワークしていて、そのひとりにはMastodonの開発リーダーであるEugen Rochkoさんもいます。Mastodonはユーザーが中心にホストするSNSで、私もFacebook断ちのときに使いそこねたところでした。
Apple断ちを始める1カ月くらい前、Weaverさんが私の借りるLibremを持ってサンフランシスコのダウンタウンに来てくれて、使い方も教えてくれました。私は「Linux」と聞いてハードコアなプログラマーとか『マトリックス』に出てくるみたいなデータがずらずら流れる画面とかをイメージして引き気味だったんですが、Weaverさんの説明で、コマンドラインを知らなくてもいいってことがわかりました。