2020年の国際関係は、超大国である米国で11月に予定する米大統領選が最大のイベントとなる。「米国第一」を掲げるトランプ大統領は内政だけでなく外交政策も自身の再選のためのツールとしてさらに使う可能性が高い。短期的な有権者へのアピールが重視されるあまり、伝統的な同盟国との連携に揺らぎが生じており、中東などの国際秩序が流動化するリスクも懸念されている。
画像の拡大
大統領選は3月に二大政党の候補者選びのヤマ場となる「スーパーチューズデー」を迎える。野党・民主党はバイデン前副大統領が先行するが混戦模様で、7月の全国大会での決定まではさらに波乱がありそうだ。
与党・共和党はトランプ氏支持で結束する。同氏がバイデン氏の追い落としのためにウクライナに外交的な圧力をかけたとされる「ウクライナ疑惑」でも、上院が1月上旬にも弾劾裁判を始める見通しだが、多数を占める与党では造反の動きはなく、無罪になるとみられている。
これまでの下院の弾劾関連の審議でも、約40%の支持率を支えるトランプ氏の「岩盤支持層」に大きなほころびは出ておらず、上院での裁判による政権への打撃も限定的とみられている。それよりもトランプ氏が注意を払うのは、大統領選の勝敗を左右する激戦州の支持者へのアピールだ。
「既に中国が農産品などの大量購入を始めた」。19年12月、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と電話で協議したトランプ氏は直後に成果をアピールした。長引く貿易戦争で中国は米国の農産品に報復関税をかけ、米農家に痛みを強いてきた。大統領選で接戦が予想される中西部の農業州では切実な問題になっている。
こうした事情を熟知する中国側が今後も農産品の輸入を駆け引きのカードにするのは確実だ。投票日を前に目に見える成果が欲しいトランプ氏が歩み寄りを急げば、米国の技術覇権を守るための対中圧力は弱まる。米中交渉での中国の知的財産問題の改善に期待をかけてきた各国の対中戦略にも影響を及ぼす。
トランプ氏は日韓両国や北大西洋条約機構(NATO)加盟国に負担の増額を求め、大統領選に向けた成果として訴えたい考えだ。在韓米軍の20年分の駐留経費を巡る交渉は越年しており、韓国政府内では強まる米国の圧力に反発が広がる。
日本とも21年度以降の在日米軍の駐留経費予算を決める交渉が本格化する。米政府内でも、選挙向けの得点稼ぎのために第2次大戦後の国際秩序の礎石となってきた米国と同盟国の関係にひびが入りかねないとの懸念の声が聞かれる。
東アジアでは米中の勢力争いにも影響する台湾総統選が今月11日に予定される。香港で半年以上続く当局への抗議活動などで広がった反中機運を追い風に、対中強硬路線の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が優位に選挙戦を進めている。
トランプ政権は蔡氏寄りの姿勢をみせ「一国二制度」の香港でも「香港人権法」を成立させてデモを支援する方針を示してきた。台湾と香港は中国にとって重大な問題であるだけに、トランプ氏が再選に役立てるための対中カードに利用するとの観測もくすぶる。
欧州ではトランプ氏が親近感を抱くジョンソン英首相が昨年12月の総選挙で公約した1月末の欧州連合(EU)離脱を実現させる方針だ。ただ20年末までの「移行期間」に英・EUで新たな自由貿易協定(FTA)をまとめられなければ、EUの単一市場や関税同盟から合意のないまま切り離されるリスクがある。
米国が大統領選一色となり、欧州も英EU離脱後の対応に力を割かれる中、混迷が深まるとみられるのは中東だ。海外米軍の縮小を公約としてきたトランプ政権はアフガニスタンでの駐留米軍の削減を検討している。
戦後、中東で仕切り役を担ってきた米国の撤収が進めば、軍事的空白をロシアやトルコ、イランなどが埋めるのは確実だ。ロシアを後ろ盾とするシリアのアサド政権は反体制派に攻勢をかけ、国外に逃れる難民は増えている。台頭するイランとサウジアラビアとの対立がさらに激しくなれば、中東からの原油供給にも影響し、世界経済にとって大きなリスクとなる。(久門武史)
【関連記事】
米中合意、15日に署名 トランプ氏が第2段階協議へ訪中
2月に対中関税下げ 米政権、覇権争い終結遠く
日米貿易協定が発効 TPP土台に自由貿易圏拡大