人工衛星は、宇宙科学発展の基点だ。物体を上空に打ち上げる技術、軌道を計算する高度な数学、双方向通信の技術など、人類が外洋である宇宙へ出ていく時代のいしずえと言える。
地球と宇宙のさかい目、地上からおよそ100kmの上空のエリアを「カーマンライン」という。ここから先は宇宙という境界だ。人工衛星はこのラインよりもはるか上空にあり、私たちの地球を俯瞰する。そして人工衛星は今や、私たちの生活やビジネスになくてはならない存在だ。
人工衛星のデータ活用に特化した今までになかったメディア
『宇宙利用マップ』(下図)というものがある。さまざまな事例が、どれだけ「宇宙」や「人工衛星」と関連しているかを表したものだ。報道などを通じて衛星活用の認知は進んでいる印象はあるものの、あらためて納得の項目もあれば、なるほどそうかと膝打ちの項目もある。
宙畑制作・2019|人工衛星といえば〈ひまわり〉に代表される気象衛星が馴染み深いが、カーナビやスマホに欠かせないGPS、そして撮影のための光学技術、電波・伝送技術の向上で地上の様子を高い精度で観察することが可能な時代だ。
この『宇宙利用マップ』を作成した「宙畑(そらばたけ)」は、宇宙と人工衛星に関係するビジネスを紹介する情報メディアだ。編集長の中村友弥は、確実に目の前にある未来を感じさせるこのメディアによって「衛星データの活用と認知向上で、今まで関係が薄いと思われていた業種など新しい可能性も含め、ビジネス全体がもっと拡大する」と言う。
宙畑編集長 中村友弥 メディアとしてグロースさせるため衛星事業と派生する情報を多彩に記事化する。
〈空畑で公開されている記事例〉
2019.11
衛星データから算出した耕作地面積と政府統計データを比較してみた
—衛星データからは、植物の育成度合いを示す指標である植生指数が分かる。衛星画像を数値化し変換することで緑地率を算出できる。地上では把握できないことも、上空の超俯瞰視点から得られる情報は多くのことを教えてくれる
2019.10
アポロ計画にも影響を与えたリモートセンシングと地球の地図づくり
昨今のホットワード、センシング技術の宇宙的視点で記された興味深い企画。アポロ計画に影響を与えたリモートセンシング(遠隔からの地表面観測など)、Google MapsやGoogle Earthといった地図製作にどのように繋がっているかを教えてくれる。
2019.2
「青天の霹靂」に聞く!衛星データを用いた広大な稲作地帯の収穫時期予測
農業への人工衛星データ利用の現場として、青天の霹靂の育成の現場を取材している。事例によるデータ活用の実態が、多業種におけるデータ活用の可能性をリアルに感じさせてくれる。
そしてこの「宙畑」、"出自"が面白い。
宙畑を立ち上げたのは編集長の中村と学生時代に交流のあった城戸彩乃だ。その出発点は「学生向けのフリーマガジンでした」と言う。
「宙畑は、TELSTAR(テルスター)という中高生向けに立ち上げたフリーマガジンが始まりです。宇宙開発の面白さや情報に、気軽に接触できる紙媒体として発信していました。今では学生団体に引き継がれ、電子書籍としても配布されています」
さくらインターネット 城戸彩乃 テルスターから始まる城戸の思いは後述の衛星ビジネスのスタートでもあった。
創刊させた城戸は当時大学生。多くの仲間と共に宇宙開発の魅力を伝え続けていた。城戸は当時のことをこう話す。
「宇宙といえば理系のイメージですが、私たちは文系の出身が多く、実際に興味を持ってくれる人も理系だけではありませんでした。宇宙開発全体で言えば、技術的な面以外にも法律やビジネスなどは理系ではないですし、いろんな人が宇宙に関わっています。私は途中で理転しましたが理転できなかったため宇宙関連への道を諦めた学生もいます。中高校生のうちに、宇宙に関わるリアルな情報を知らせてあげたいと思っていました」
そして、4年目を迎えた時、再び城戸の声掛けから中村をはじめ多様なメンバーが集まり、宙畑を立ち上げることになる。
多様な人たちが関わることができる──という城戸の考え方は、衛星ビジネス全体の発展と可能性を模索する「宙畑」に受け継がれるのだ。
Tellusというプラットフォームの誕生が、宙畑と衛星ビジネスを合体させる
衛星ビジネスは国のリーダーシップで加速し続けている。内閣府は2017年に「宇宙産業ビジョン2030」を立ち上げた。宇宙産業は第4次産業革命を進展させる駆動力だと位置付け、衛星データの利活用に向けた環境整備や、政府の衛星データのオープン・フリー化を推進している。
その方針を受け、経済産業省は衛星データ利活用のプラットフォームを構築すべく、さくらインターネットを開発の委託先とし「Tellus(テルース)」を立ち上げた。
Tellusというデータプラットフォームを簡単に説明すると、政府の管轄する衛星と一部の民間の衛星(NECのあすなろ等)の膨大なデータを、誰もがログインして利用することができるというもの。データ自体は利用料もかからない。