人工知能(AI)モデルの開発やトレーニングに利用される、高価なGPUチップを企業にレンタルするスタートアップの群れが、ここ1年で大規模な資金調達を行っている。
2014年にVultr(バルチャー)を創業したデイビッド・アニノウスキーがデータセンター事業を立ち上げた当時、GPUは主にゲーム向けのものであり、一般的なハイテク大手には縁遠いものだった。しかし、今ではこれらのチップは、AIモデルの開発に欠かせないものとなり、そのレンタル事業は同社の評価額を35億ドル(約5540億円)に押し上げた。
フロリダに拠点を置くVultrは、12月に半導体大手のAMDとヘッジファンドのLuminArx Capitalから3億3300万ドル(約527億円)を調達した。同社は、過去10年で世界中に30以上のデータセンターを構築し、企業向けのホスティングサービスを展開しているが、その成長を牽引したのはGPUのレンタル事業だ。「AIはインフラ市場で最も成長が早い分野だ」と、VultrのCEOを務めるJJ・カードウェルはフォーブスに語った。
しかし、この分野で注目すべきスタートアップは、Vultrのみではない。Pitchbookのデータによると、投資家は過去1年間でGPUレンタルの25社に合計約200億ドル(約3兆1600億円)を投入していた。
急成長するこの分野をどう呼ぶべきかはまだ決まっていない。「クラウドGPU」や「GPUファクトリー」などの候補があるが、半導体関連の調査企業であるSemiAnalysisのディラン・パテルは、「ネオクラウド」という用語を用いている。
ビットコインの採掘から事業転換
この分野で最大の成功を収めた企業としてはニュージャージー州を拠点とするCoreweave(コアウィーブ)が挙げられる。このスタートアップは、もともとビットコインのマイニング(採掘)のためのGPU群を構築していたが、2018年の暗号資産市場の崩壊後にAI企業向けのGPUのレンタル事業にピボットした。
同社は、昨年だけで17億5000万ドル(約2768億円)のエクイティ調達と81億ドル(約1兆2800億円)の借り入れを実施し、評価額は230億ドル(約3兆6000億円)に達している。
Coreweaveを追いかけるスタートアップ群は、独特なバックグラウンドを持つ集団だ。例えば、Crusoe Energy(クルーソー・エナジー)はかつて、油田やガス田から生まれる天然ガスを用いてビットコインを採掘していたが、今ではCrusoe AI(クルーソーAI)に社名を変えてデータセンター事業に転換した。ドイツに上場するNorthern Data(ノーザンデータ)は、ステーブルコイン大手のTether(テザー)から11億ドル(約1700億円)の救済資金を受けて、AIコンピューティングの大手へと変貌を遂げている。
また、フランスのOVHは、Vultrと同様に従来型のデータセンターからAIコンピューティングに転向しており、かつて「ロシア版グーグル」と呼ばれたYandex(ヤンデックス)の崩壊後に生まれたNebius(ネビウス)も、エヌビディアやアクセル・パートナーズなどの投資家から7億ドル(約1100億円)を調達してGPUレンタル事業を始動した。
さらに、小規模なプレイヤーとしては、エヌビディアのチップの小規模クラスターを組み立てるRunpod(ランポッド)や、休止状態のデータセンターを仲介するFluidstack(フルーイッドスタック)が挙げられる。
「低価格」でAI企業を魅了
GPUレンタルのスタートアップは、アマゾンのAWSやオラクルのようなホスティング分野の大手を大きく下回る価格設定によって顧客を魅了している。Coreweaveの場合は、エヌビディアの主力GPUであるA100へのアクセスを時間あたり2.21ドルで提供しているが、この価格はAWSの5.12ドルの半分以下だ(ただし、AWSは長期契約で大幅なディスカウントを提供している)。
「アマゾンがEコマースのウォルマートだからといって、クラウドコンピューティングでもそうだとは限らない。むしろ高級百貨店のニーマン・マーカスに近い」と、Vultrのカードウェルは指摘した。
この分野のスタートアップが価格を低く抑えられるのは、大手が好むような追加のサービスやソフトウェアをバンドルしていないからだ。大手の場合は、コンシェルジュ的なサービスを好むが、AIスタートアップの場合は、単に安価なGPUを求めていることが多い。
さらに、これらの小規模なスタートアップは、エヌビディアやAMDのようなチップの製造元から出資を受けているため、GPUの入手を有利に進めることが可能だ。エヌビディアはCoreweaveを支援しており、AMDはVultrを支援している。そして、GPUの供給不足によってマイクロソフトやオラクルなどの大手は、このようなスタートアップに頼らざるを得ない状況となっている。マイクロソフトは、直近の決算発表において、チップの供給不足を理由にデータセンター事業の成長スピードが低下しかねないと警告していた。
Coreweaveは、昨年だけでデータセンターを14カ所から28カ所に倍増させており、今後の5年間に向けた100億ドル(約1兆5800億円)の契約をマイクロソフトと結んでいる。また、オラクルもテキサス州にあるCrusoe AIのデータセンターをリースするための34億ドル(約5400億円)の契約を結んだと報じられた。
避けられない「淘汰」
それでも、この分野のスタートアップは課題を抱えている。資金調達はその1つで、ビットコインマイニングのノウハウを、GPUや顧客データの管理に活かせない小規模なチームも存在する。「産業用の倉庫を建てるのと5つ星ホテルを建てるのは全く違う」と、ある専門家は警告した。
AIチップの需要がやや減少しているという兆候もある。一部のスタートアップは、昨年9月以降に価格を最大3割引き下げており、業界向けの掲示板にGPUレンタルの広告を掲載している企業もある。
さらに、エヌビディアの高性能かつエネルギー集約型の新型チップが市場に投入されることで、大規模なGPUレンタル企業が優位に立つ可能性が高い一方で、小規模プレイヤーにとっては、借り入れに依存する事業拡大と、より効率的なチップの普及による供給過剰が苦境につながる可能性がある。
「この分野で1つはっきりしていることは、多くのスタートアップが、いずれは破産に追い込まれることだ」と、調査企業SemiAnalysisのパテルは語った。