昨年末、ホンダと日産が経営統合の協議に入ったことが発表された。
以下は英国からの視点での、この発表についてのセーラ・パーソンズ氏の寄稿である。
パーソンズ氏は英国系ヨーロッパ企業を対象に異文化コミュニケーションの理解とビジネスをサポートする、「イーストウエスト・インターフェイス」のマネージング・ディレクター。在英日本大使館がサポートする「英国ジェットプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)同窓会」英国の元会長で、英国と日本との架け橋としてのその貢献に対し、在英日本大使から表彰歴もある。Forbes JAPAN Webに定期的に寄稿するほか、日本でのビジネスに関するコメンテーターとしてBBCおよびCNBCニュースに出演経験もある。
「日産救済ではない」は真実か?
ここ英国でも一部の評論家たちは、日産とホンダが合併する理由は見当たらないと首をかしげている。ブランド間の明確な補完性もない上、むしろ日本政府が日産を救済するためにこの合併を押し付けているのでは、と疑う声もある。日産は近日、利益が低下しており、iPhoneを製造する台湾の鴻海精密工業(Foxconn)による買収の噂まで浮上していた。
そんな中日本政府は、2030年までに、ソフトウェア定義型自動車の世界市場での日本の自動車メーカーによる30%のシェア獲得という目標を掲げた。そして達成への戦略の一環として、国内メーカー同士で競争を超えた協力体制を築くことを奨励している。
ホンダは、この合併は日産の救済策ではないと言っている。だが、日本の産業戦略という観点からみれば、今回の発表は非常に理にかなっている。それどころかこの合併はむしろ、経済成長期の「開発主義国家」時代を彷彿とさせる。日本政府は当時、企業運営に大きな影響力を持ち、時には企業を救済したり、同じ系列内の企業同士で助け合い、生き残るように仕向けたりした。
さらに、中国メーカーのEV市場での急成長や、トランプ大統領時代のようなアメリカの関税政策の不確実性を考えた場合、日本がEV市場での競争力を高める戦略を打ち出すことは当然だ。そしてもし日産とホンダが合併すれば、世界第3位の自動車メーカーが誕生する。
もちろん、合併にあたっては、製品戦略や意思決定といった課題は山積みだが、日産-ルノーアライアンスで見られたようなゴタゴタを思えば、日本メーカー同士のほうがスムーズな協力体制を気づける可能性は高いかもしれない。
ンダ-日産の統合を英国の識者が考えた—英国サンダーランド工場からの期待も
モビリティ
2025.01.09 11:15
ホンダ-日産の統合を英国の識者が考えた—英国サンダーランド工場からの期待も
Forbes JAPAN 編集部
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英国サンダーランド工場が寄せる期待——
英国では、この合併案を労働組合が注視している。というのも、日産が昨年11月、全世界で9000人の人員削減(全体の約6%)を発表したことが、北東イングランドのサンダーランド工場に不安を広げているのだ。この工場は1986年に日本企業として初めて英国に進出した拠点だが、現在は稼働率が半分程度に落ち込んでいる。
しかし、もしこの合併がホンダを英国の自動車生産に呼び戻し、サンダーランド工場の余力を活用することになれば、工場にとって追い風となる可能性がある。
ホンダは1985年に南東イングランドのスウィンドンに工場を建てたが、ブレグジット後には閉鎖した。結果として工場のみならず、地元サプライチェーン全般で多くの失業者を産むことになった。
しかし日産は英国に留まった。その背景には、日産が、ブレグジット後も英国に留まるよう英国政府から巨額の支援を受け取った事実もあることが、最近明らかになった。
英国はブレグジット前、欧州で最も多くの日系自動車メーカーが集まる国だった。日本の対英投資の付加価値は、英国において、技能や教育などの分野で重要な役割を果たしている。日産も例外ではなく、最近は地元自治体と連携して「MADE NE(製造、自動化、デジタル化、電動化 北東)」を牽引すると発表した。
サンダーランドでEVやバッテリー製造に特化したスキルを小学校から学べるオープンアクセス型の研修施設を設立し、産業イノベーションプロジェクトも資金と設備でサポートする予定だ。
結果、この日産-ホンダ合併案が英国経済にもたらす恩恵は大きい可能性がある。2024年7月から9月にかけてゼロ成長となっており、製造業の技能が不足している英国経済に、多くの利益をもたらすことも期待できるだろう。
セーラ・パーソンズ(Sarah Parsons)◎英国のリンカンシャーに拠点を置くイーストウエスト・インターフェイスのマネージング・ディレクター、在英国日本大使館主催「英国ジェットプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)同窓会」英国元会長。企業の異文化コミュニケーションと戦略をサポートしている。多くの大手日系企業や在英日本人エグゼクティブとのビジネスのほか、英国企業と提携したい日本企業へのコンサルティングも行なってきた。また、英国広報協会(Chartered Institute of Public Relations)のアソシエイトでもあり、SOAS、シェフィールド大学、ウォーリック大学、クランフィールド大学などで日本ビジネス、異文化コミュニケーション、国際人事管理、労使関係について講義を行っている。